問題提起
【問題提起】保険の谷間問題~社長救出作戦パート2~
事業主の仕事中のケガは、健康保険でも労災保険でも保障されないと同業者の集まりで聞いたA者の社長、早速、社会保険労務士に相談に行きました。その社会保険労務士の話では、①不服申し立て②特別加入という2つの救済方法が考えられるということでした。パート1に引き続き、本編では②の特別加入についてご説明しましょう。
1)特別加入制度の概要
労災保険法は、業務上または通勤時にケガや病気をした労働者の保護を目的とする制度です。事業主・自営業者・家族従事者は、労働基準法上の労働者として認められないため、労災保険法の対象者に該当しません。しかしながら、事業主であっても従業員と従業員と同様に現場で労働に従事し、作業の実態や災害発生状況などからみても、労働者に準じて保護するにふさわしい人たちもいます。そこで、これらの人たちに任意に労災保険に加入することを認め、保険給付を行うことのできる制度が設けられます。これを、特別加入制度といいます。
特別加入者の種類は、中小事業主や家族従事者(第1種)、労働者を使用しないで事業を行う大工・とび・左官等の一人親方や個人タクシーの運転手等(第2種)、海外の支店等に派遣される労働者等(第3種)があります。そして、中小事業主等(第1種)が特別加入するには、労働保険事務組合に加入している事が要件となります。
【労働保険事務組合とは】
労働保険(労災保険・雇用保険)は原則、個別で加入し事業所単位で直接事務手続きをとり、保険料を納めます。労働保険事務組合とは、中小事業主の委託を受けて、労働保険事務を処理するため、厚生労働大臣の認可を受けた事業主の団体等をいいます。事務組合に委託できるのは常時使用する労働者が金融・保険・不動産・小売業では50人以下、サービス業・卸売業の事業では100人以下、その他の事業では300人以下の、いわゆる中小規模の事業主となります。事務組合に加入すると、通常40万円以上でなければ分割納付出来ない労働保険料が、金額にかかわらず3回に分けて納付することが出来ます。上記の特別加入制度と併せて、事務組合加入のメリットと言えるでしょう。
2)制度の問題
次に、その社会保険労務士は以下の注意点を付け加えました。
中小事業主等及び一人親方等の業務災害の認定は、厚生労働省労働局長の定める基準によって認定されるため、業務上のケガ全てが補償の対象になる訳ではありません。例えば、法人等の執行機関として出席する株主総会・役員会や得意先等の接待等(資金繰り等を目的とする宴会・親会社との接待ゴルフ)、事業主本来の業務と考えられるもの、従業員を伴わずに作業をした時間外労働や休日労働中のケガは、補償の対象から除かれるのです。
具体的に、労災として認められなかったケースには、次のようなものがあります。
【ケース1】
所定労働時間を午前8時から午後6時までと申請していた特別加入者が、午前5時30分頃、労働者を伴わず単独で出勤し、他社配達のトラックより荷下ろし作業中、負傷したケース
【ケース2】
所定休日に従業員に出勤を要請したが断られ、納期に間に合わせるため、やむなく一人で作業中、負傷したケース。
このように特別加入をしていても範囲外とあるとして保障されず、一方、業務上の事故なので健康保険でも給付を受けることが出来ないという、いわゆる「給付の谷間」に陥って、医療費の全額負担を強いられるケースも生じています。
3)問題提起
損害保険に自らの判断で加入し、万が一の事故に備える事業主もいますが、業務上のケガ等について補償のないことに無防備な事業主が多いのが実情です。特別加入制度は補償の範囲が完全ではないとはいえ、事業主が労働者同様の給付を受けることの出来る優れた制度です。不服申立制度と併せ、周知・普及に努めていくことが必要です。そして、特に現場で労働者同様に働き、社会保険諸法令を守る中小事業主が安心して働けるよう、早急に「健康保険と労災保険の谷間問題」を解消すべく、政府は取り組むべきです。(以上)
2003.1.25寄稿、文責 渡邉 寛
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